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東京地方裁判所八王子支部 昭和47年(ワ)806号 判決 1975年8月15日

原告 木村重成

被告 新産別全国機械金属労働組合光洋電子工業支部

主文

原告が被告の組合員たる地位を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の主張(請求原因)

1  当事者

(一) 被告は、訴外光洋電子工業株式会社(以下訴外会社という)の従業員で組織されている労働組合である。

(二) 原告は、昭和四四年四月、右会社に入社すると同時に被告組合に加入した。

2  被告組合は、昭和四五年三月一二日、原告に対し同月一〇日の臨時組合大会において、原告を除名した旨通告した(到達は同月一四日、以下本件除名という)。

右の通告によれば、除名理由は、原告が昭和四五年三月七日配布したビラ(以下本件ビラという)が被告組合執行部及び被告組合を誹謗するものであり、原告の右行為は被告組合規約第一三条に該当するということである。

3  しかし、本件除名は左の理由により無効である。

(一) 除名理由の不存在

(1) 被告組合規約第一三条には、組合員が故意に組合の統制ある活動を妨害したり、正常な活動と機能を紊して大多数の組合員の利益を損つたときには、その事情により、当該組合員の氏名、行為の公示、一定期間の権利停止、脱退勧告、除名の制裁を受ける旨が規定されている。

(2) 原告が昭和四五年三月七日に配布したビラ(本件除名理由とされているもの)は、原告の執行委員補充選挙への立候補を執行部が却下したことを非難し、闘う姿勢で春闘に取り組むことを提起したものである。被告組合規約第七条第四号には組合員の権利として役員の行動について批判することが規定されている。原告は、前記ビラで組合員の当然の権利として保障されている役員批判を行なつたものであつて被告組合から制裁を受けるいわれはない。

(3) 原告のビラ配布により大多数の組合員の利益を損つた事実も存しない。

(4) 仮に原告の行為が制裁の対象となり得るとしても種々の制裁のある中で最も重い除名処分に付されるゆえんは一切存しない。

(5) したがつて、本件除名には理由がなく無効である。

(二) 除名手続の違反

(1) 被告組合規約第七条第六号には、組合員の権利として制裁について弁明することができる旨規定されている。

(2) ところで、原告は、本件除名決議のなされた臨時組合大会の当日(昭和四五年三月一〇日)、訴外会社正門に赴き、大会への出席のため入構を求めたがその前日原告に懲戒解雇を言い渡していた訴外会社は、解雇を理由に実力で原告の入構を阻止した。

また、大会当日の午前中原告は被告組合の執行副委員長に電話して組合大会へ出席させるよう求めたにもかかわらず、被告組合は何の措置も講じなかつた。

さらに、大会の途中一部組合員から原告の弁明を聞くべきだとの主張がなされたが、被告組合執行部はこれを無視して議事を進行させた。

このため原告は自らの除名が決議された組合大会で弁明することはおろか出席することさえできなかつたのである。

(3) 除名は死刑にも相当する制裁であり、とくに被告組合は訴外会社との間にユニオンシヨツプ協定が締結されているため組合の除名は即解雇につながるという事情があるのであるから手続はとくに慎重にすべきであり、被制裁者の弁明を聞かずになした本件除名の手続には重大な瑕疵があり、したがつて本件除名は無効である。

4  訴外会社は、昭和四五年三月九日原告を懲戒解雇し、原告が右解雇の無効を主張して東京地方裁判所に地位保全の仮処分申請をしたところ、右事件の審理中の同年五月一六日、訴外会社は、被告組合の本件除名処分を理由にユニオンシヨツプ協定に基づく解雇を通告した。しかし、右裁判所は、昭和四七年二月二六日訴外会社の懲戒解雇を理由なしとしたうえ、被告組合の除名決議も無効と判断し、訴外会社のユニオンシヨツプ協定に基づく解雇を無効として原告の雇傭契約上の権利を仮に定める判決を下した。ところが、被告組合は右判決後も自らが当該事件の当事者でないことを理由に原告の組合員としての地位を認めず今日に至つている。

5  よつて、原告が被告組合の組合員としての地位を有することの確認を求めて本訴に及んだ。

二  原告の主張に対する認否

1  原告の主張1の(一)の事実は認める。1の(二)の事実のうち、原告が組合に加入した時期は争いその余は認める。原告が加入したのは昭和四四年七月である。

2  同2の事実は認める。

3  同3の(一)の(1)は認める。(一)の(2)ないし(5)は争う。3の(二)の(1)は認める。(二)の(2)のうち被告組合大会で原告に弁明させなかつたこと、原告が組合大会当日訴外会社の正門に来たこと、原告が当日の午前中被告組合の執行副委員長に電話をしたことは認め、訴外会社が原告を入構させなかつたことは不知、その余の事実は争う。(二)の(3)のうち被告組合と訴外会社との間にユニオンシヨツプ協定が締結されていることは認めるがその余は争う。

4  同4の事実は認める。

三  被告の主張

被告組合は、昭和四五年三月一〇日、原告を除名したので原告は被告組合の組合員ではない。

1  除名の理由

(一) 原告は、昭和四五年三月七日「労働者」創刊号なるビラ(本件ビラ)を配布したがそれには「現執行部の姿勢そのものが会社ベツタリである」とか「執行部は自分達の出世の道具として組合を私物化し利用しているのではないでしようか」とか「執行部はサボつている。最も大切な点はすべて避けているのです。彼らは会社と対立するのがこわく、会社ににらまれたらダメだと思つているから」等と記載されており、原告は組合役員の批判に藉口して被告組合執行部を極言をもつて誹謗した。

(二) 情状として、原告はこれ以前においても昭和四四年一一月一九日配布のビラや同月二一日配布のビラで組合執行部を誹謗している。また、原告はこれまで一方的な政治的主張をくり返し、被告組合の運動方針に背馳する言動をなし、反戦行動委員会なる組織をつくつて活動してきたが、これらのことは組合の団結に亀裂をもたらすおそれがある行為である。また「労働者」と称するビラの発行は組合運営を混乱させるものである。すなわち、被告組合には「こだま」と題する機関紙が発行されており組合員から投稿があれば余程の事情がない限り掲載しないことはなかつたのに、原告は右機関紙に投稿することなくいきなり独自のビラを発行したのであつて、このような行為は被告組合の運営ルールに則つたものとはいい難く、組合運営を混乱させるものである。

(三) 原告の昭和四五年三月七日のビラ配布行為は、それまでの原告の言動を併わせ考えると、被告組合の団結にとつて有害無益の許し難い非行であつて、故意に組合の統制ある活動を妨害し、正常な活動と機能を紊して大多数の組合員の利益を損つたものとして、被告組合規約第一三条に該当し、同条第四号の除名に相当する。

(四) 労働組合が所属組合員の統制違反行為に対してどのような制裁を課するかは組合規約に従つた組合の自治にまかされるべきであり、それが著しく不当でない限り裁判所といえども介入すべきではなく、本件では多数の組合員が除名を可としたものであつて右組合大会の決議は最大限に尊重されるべきである。

2  除名手続

(一) 被告組合執行部は、原告の本件ビラ配布行為に対し、昭和四五年三月九日執行委員会を開催し、討議した結果原告の除名を組合大会に提案せざるをえないとの結論に達した。そこで同日午後三時より代議員会を開催し執行部案を検討し、同日午後五時より職場討議にかけ、その後、臨時組合大会を開催することを決定した。

(二) 同月一〇日午後五時二〇分から被告組合の臨時大会が開かれ、そこで執行部提案の原告除名の件が審議されて投票の結果、原告の言動は被告組合規約第一三条第四号に該当するものとして賛成一五七、反対三八、無効一六で執行部の提案(原告の除名)が可決された。

3  原告の弁明権について

(一) 原告は、前記臨時組合大会の始まる前に青ヘルメツトをかぶり棒を持ち、同様の服装をした学生風の者一五~六名とスクラムを組み、訴外会社正門付近をデモしていたので、被告組合は、その異様な服装及び雰囲気から原告を右組合大会に出席させればいかなる混乱を生ずるかも予測し難く、原告が右のような行動にでていることは組合大会で真摯に弁明しようという意欲に欠けており、結局、原告はその弁明権を放棄したものと解した。したがつて、原告に弁明の機会を与えなかつたとしても被告組合規約に違反するものではない。

(二) 仮に原告に弁明の機会を与えなかつたことが瑕疵ある除名手続といえるとしても、右瑕疵は本件除名決議の効力を否定する程重大なものではない。何故ならば原告が本件ビラを配布したことは組合員が直接見分しており、そのビラに記載された内容は一読すれば明らかであるし、ビラ配布の動機についてもビラ自体に記載されているのであるから、原告の弁明を聞かなければ統制違反事実の認定ができないとか、情状がわからないという事案ではなく、原告の弁明を聞けば決議の結果に影響が及んだものとは考えられない。よつて、原告に弁明させなかつたという手続上の瑕疵は本件除名決議の効力を左右しえないというべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の(一)のうち、原告が本件ビラを配布したこと、右ビラには被告引用どおりの記載があることは認めるが、その余は否認する。すなわち、原告は組合員に保障された当然の権利として組合執行部を批判したものであつて、誹謗したものではなく、本件ビラ配布行為が組合の統制ある活動の妨害とか正常な活動と機能を紊すものとはいえないことは勿論、組合規約第一三条にいう「大多数の組合員の利益が損なわれたとき」には全くあたらない。同1の(二)のうち、原告がこれまでにもビラを配布したこと、政治活動を行なつたことは認めるが、その余は争う。原告の行為はいずれも統制処分の対象となりうべきものではない。同1の(三)、(四)は争う。仮に原告の行為が統制処分の対象となるとしても最も重い除名処分に付される理由は全くない。

2  同2の(一)の事実は不知。2の(二)のうち当日原告除名の件で被告組合の臨時大会が開催されたこと、そこで、原告の除名提案が可決されたことは認める。

3  同3の(一)の主張は争う。すなわち、組合執行部は臨時組合大会の開催について原告に何の連絡もせず、原告が右大会当日の午前中執行副委員長に電話をして右大会への出席を求めたのに、同人は組合大会の開催を秘匿し、原告に出席するようには一言もいわず、会社構内への立入(原告は当日朝から会社側に入構を阻止されていた)は訴外会社と原告の間の問題であるから組合は関知しない旨述べた。同日午後五時すぎころ原告は支援の人達一五~六名の者と訴外会社正門前に赴いた事実はあるが、このときヘルメツトをかぶつていた者は二~三名にすぎず、旗竿は持つていたが棒を持つていた者はいない。デモをしたのは会社側から原告の入構が阻止されていたからであるが、結局、原告は会社側に入構を拒否されて、入構できなかつた。原告らは、実力を行使してまで入構しようとしたことはなく、正門前で会社側の者と、原告の入構について交渉をくり返していたのである。以上のように組合執行部ははじめから原告に弁明の機会を与えようとはせず、また、原告が弁明権を放棄するようなふるまいをしたこともなく、被告の主張は失当というべきである。3の(二)の主張は争う。

第三証拠<省略>

理由

一、被告が訴外光洋電子工業株式会社の従業員で組織されている労働組合であること、原告は、昭和四四年四月、右会社に入社したこと、原告は、遅くとも同年七月ころには被告組合に加入したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、次に、昭和四五年三月一〇日、被告組合の臨時大会が開催され、そこで組合執行部から原告の除名が提案され、票決の結果右提案が可決されたこと、右除名の理由は、原告が同年三月七日配布したビラ(本件ビラ)で、被告組合執行部と被告組合を誹謗したというものであること、被告組合と訴外会社との間にはユニオン・シヨツプ協定が締結されており、訴外会社は同年五月一六日、右除名を理由に右協定に基づき原告に対し、解雇を通告したこと、以上の事実も当事者間に争いがない。

三、原告は、本件除名は、(一)除名理由の不存在、(二)除名手続の重大な瑕疵を理由に無効である旨主張するので、まず、本件除名の手続に重大な瑕疵が存するか否かについて判断することとする。

原告は、本件除名処分が決定されるにあたつて、被告は原告に弁明の機会を与えなかつた旨主張し、被告が原告に弁明させなかつたことは当事者間に争いがない。

ところで、組合の制裁としての除名は、組合員としての資格を喪失せしめるという最も重い制裁であり、とくに本件のように、組合と会社との間にユニオン・シヨツプ協定が存在するような場合には、同時に会社の従業員たる地位をも剥奪し、組合員の生活にも直接重大な支障を及ぼすものであるから組合員の権利保護の建前からいつて、その手続はとくに慎重になされなければならないのはいうまでもなく、手続について組合規約に明示の規定が存する場合は、これに従わないのを正当とする特別の事情の存在しない限り、必ずこれに従わなければならないのは勿論、組合規約に明文の規定を欠くときには、組合員の集団意思が十分に形成され、かつ、表明される民主的な手続により、いやしくも被除名者の権利を不当に侵害しないようになされるべきであり、もし、これに違反して除名処分が決議されたときは、その決議は無効であるといわなければならない。そして、一般に右にいう被除名者の権利を手続上保護するものの一として被除名者の弁明権がある。すなわち、組合員が除名処分を受ける場合には、当該組合員(被除名者)に対して、除名が決定される前に除名の事由を予め通知し、除名が決定される会合に召喚し、防禦のために十分弁明する機会を与えることが必要とされるのである。

被告組合規約第七条にも組合員の権利として制裁について弁明することができる旨規定されていることは当事者間に争いがないが、被制裁者の権利を手続的に保護するという前記弁明権の存在を明文をもつて確認したものというべきである。

四、しかし、右弁明権は被除名者の権利であつて行使するか否かは被除名者の任意であり、弁明の機会が十分与えられたにもかかわらず、被除名者が故らにこれを行使せず、放棄したような場合には、弁明のないまま除名を決定してもそのこと自体は何ら問題がないことはいうまでもない。

本件においては、原告に弁明させなかつたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、被告はこれについて原告が弁明権を放棄した旨主張するのでこの点について判断することとする。

成立に争のない甲第一号証、原本の存在、成立について争いのない同第一三号証、証人峰岸重夫、同小室民也の各証言(いずれも後記措信しない部分を除く)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和四五年三月七日本件ビラを配布した件で、同月九日の午後被告組合の執行委員会が開催され、そこで、同執行部としては原告の右行為は統制違反として除名に値するものと判断し、臨時組合大会を召集し、原告の除名を提案することを決定し、同日夕方、原告除名の件で翌一〇日に臨時組合大会を開催する旨の掲示を訴外会社構内にする一方、原告の前記行為を批判するビラを配布したこと、これより先の同日午前中原告は、訴外会社より本件ビラを配布したことで懲戒解雇を通告され、同日午後、右解雇問題で弁護士に相談に行き同日夜、当時原告の住居になつていた訴外会社の寮に戻つたこと、右寮には当時被告組合の書記長であつた小室民也と執行委員一名が住まつていたが、同日中は原告に原告除名の件で臨時組合大会が開催されることの通知は被告組合の誰からもされなかつたこと、同月一〇日の朝、原告は訴外会社の正門前に赴き、解雇に対する抗議のビラを配布し、会社側に就労させるよう求めたが、会社側の者数名に制止されて会社構内にははいれなかつたこと、同日昼休み職場討議が行なわれたが、原告は、前記組合執行部のビラや職場討議が行なわれたことから原告が被告組合から制裁を受けるものと推量し、組合執行部に連絡をつけるべく、同日午後一時すぎころ峰岸重夫執行副委員長に電話をし(原告が同人に電話をしたことは当事者間に争いがない)、同人に組合大会開催の有無を尋ね、大会には原告を出席させて弁明させるよう要求したが、同人は大会開催については確答を避け、原告の弁明についても執行部で検討する旨を返答し、原告の弁明を積極的に求めようとはしなかつたこと、同日午後五時ころ、原告とこれを支援する一五~六名の者が訴外会社正門前で原告の解雇に抗議する集会を行なつたが、その際、会社構内の様子から会社構内で組合大会が開催されることを知つた原告は、右大会に出席のため、正門内側で原告らの構内立入を制止すべく待機していた会社側の非組合員に構内への立入りを求めたが、これを拒否され構内へ入ることができなかつたこと、同日午後五時二〇分ころ、原告に原告除名の件で組合大会が開かれることの通知がなされないまま会社構内の集会所で原告除名の件での被告組合臨時大会が開催され、その中で一部組合員から原告の弁明を聞くべきだとの意見が出されたが、これより先、正門前で集会をしたりデモ行進をしていた原告らを見て、原告を組合大会に出席させれば混乱が生ずるおそれがあるとして原告を大会に出席させないことに決定していた組合執行部は、出席させる必要はない旨答弁し、議事を進行させ、投票の結果、賛成一五七、反対三八で執行部の除名提案が可決されたこと、この間原告は、会社正門前で支援の者一五~六名とともに原告の構内への立入を許すよう訴外会社側の非組合員と交渉をくり返し、あるいは会社側の態度に抗議して会社周辺をデモ行進したりし、また、支援者の中には数名ヘルメツトをかぶつた者もおり、旗竿も数本所持していたが、格別会社側の者達との間にトラブルは起きず、暴力が振われたり、実力を行使して構内に立入ろうとしたことはなかつたこと、以上の事実が認められ、証人峰岸重夫、同小室民也の各供述のうち右認定に反する部分は前掲採用各証拠に照らしたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

被告は、原告が支援者達一五~六名と会社正門前に集り、スクラムを組みデモ行進をした事実をとらえ、原告には組合大会で真摯に弁明しようという意欲はなかつたものとし、原告が弁明権を放棄したものと主張するのであるが、前記認定によれば、原告は、大会当日の午後、大会が始まる前に執行副委員長に電話で大会で弁明させるよう要求し、また、大会開催中原告は会社正門付近で、会社側の非組合員に大会出席のため構内に立入らせるよう要求していたのであるから、原告に弁明の意欲があつたことは十分認められるところである。そこで、原告及びその支援者らに原告が弁明権を放棄したものと解されてもやむをえない行為があつたか否かについてみるに、前記認定によれば、原告らは大会当日の午後五時ころ、会社正門前に集り、支援者の中にはヘルメツトをかぶつた者が数名おり、旗竿も数本あつたが、支援者も含めて原告らが暴力を振つたり、実力で会社構内に入ろうとしたことはなく、原告の構内立入につき会社側の非組合員と交渉をくり返し、あるいは会社周辺をデモ行進していたというにすぎないのであるから、原告らの右行為をもつて原告が弁明権を放棄したものと直ちに解することはできない。また、証人峰岸重夫、同小室民也の各証言によれば、組合執行部は、原告らがヘルメツトをかぶり旗竿を持つて正門付近に集りデモ行進をしたことを見ただけで、原告らが何を要求しているのかを確認することなく原告を大会に出席させない旨決定したことが認められ、前記のような原告らの態度からすれば、原告一人のみを大会に出席させること、あるいは少なくとも原告に同人一人だけが入るように説得を試みることは十分可能であつた(現に原告本人尋問の結果によれば、原告らが会社側に求めていたのは原告一人の入構であつたことが認められる)のであるから、原告らの要求を確認することもなく、何ら原告に大会で弁明させるような努力をすることなしに原告を大会に出席させれば混乱するおそれがあると即断し、原告を大会に出席させない旨決定した組合執行部の態度はあまりに軽率にすぎるものと断ぜざるをえない。しかも組合執行部は三月九日の午後原告の除名の件で組合大会を開催することを決定しておきながら、原告に通知をしようとすれば容易に通知することができたにもかかわらず(前記のように原告は当時会社の寮に住んでいた)何ら通知をしなかつたことは前記認定のとおりであり、また、大会当日原告が執行副委員長に電話をした際も積極的に大会で原告の弁明を求めようとはしなかつたことも前記認定のとおりである。

以上によれば、原告が弁明権を放棄したとは勿論、原告の行為に弁明権を放棄したものと解されてもやむをえないものがあつたとも解することはできず、かえつて被告組合執行部は原告に弁明の機会を与えることに当初から消極的であり、結局原告に弁明の機会を与えることのないまま組合大会を強行したものと解さざるをえないのであつて、原告が弁明権を放棄したとする被告の主張は採用することができない。

五、次に被告は本件の場合原告に弁明させなくても原告の行為(組合執行部と組合を誹謗したこと)やその動機は、原告の配布したビラ等によつて一般組合員にとつて明らかであるから原告に弁明させたとしても決議の結果に影響はなく、したがつて、弁明させなかつたという手続上の瑕疵は本件除名決議の効力を左右しえない旨主張する。

しかしながら、被除名者の手続上の権利は予想される決議の結果如何にかかわりなく保障されなければならないことはいうまでもないことである。何故なら被除名者の手続上の権利を保障した民主的手続に則り、はじめて民主的な集団意思が形成されるのであり、はじめから被除名者の意見を封殺したうえで一方(多数者)の意見により形成されたものは民主的な集団意思とは到底いえないからである(しかも本件の場合原告の除名の理由は原告が組合執行部及び被告組合を誹謗したというのであるから、原告に弁明の機会を与えなければ一方の当事者である組合執行部の意見のみで集団意思が形成されるおそれが多分にあり、原告の行為が被告組合執行部を誹謗したものか、あるいは原告主張のように同執行部を批判したにとどまるものかについては、原告の意見を聞かない一般組合員に正しい判断ができるかどうかはなはだ疑問の存するところである)。よつて、被告の右主張も採用できない。

六、はたして、以上のとおりであるとすれば、本件除名手続には、原告に弁明の機会を与えなかつたという重大な瑕疵があることになり、その余について判断するまでもなくその除名の決議は無効であると解さざるをえず、したがつて、原告は今なお被告組合の組合員たる地位を有するものといわなければならない。しかして、被告が原告の右地位を争つている以上、原告において確認の利益を有することは明らかであるから原告の本訴請求は理由があるものとしてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡徳寿 新田誠志 大橋弘)

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